7冊同時進行読書

~急がない読書 作品世界を開く~

読書

二冊目 【注文の多い料理店】

投稿日:2019年10月27日 更新日:

宮沢賢治の生前刊行された書籍はわずか2冊です。童話集「注文の多い料理店」はそのうちの1冊です。もう1冊は詩集で「春と修羅」です。

僕の持っている本は、角川文庫の昭和21年5月20日初版発行のものです。

ちくま文庫の宮沢賢治全集、全10巻もあります。注文の多い料理店は、その中の第8巻に収録されています。この第8巻には、他にも雪渡りなどの童話が収められていますが、この第8巻には生前に発表されたものが集められているようです。

角川文庫のそで(カバーの折り返してあるところ。)には、「童話集初版本の復刻版であり、文庫本で可能な限り、当時の挿絵等を復元した。」と記されています。表紙はまったく違います。ただ本文は現代文に改められているとはいえ、大正13年に発表された宮沢賢治初の童話集の雰囲気を味わうことはできるかなと思います。

(目次よりさらに前にのせられた文章です。)

初めて刊行する本だということもあって、この序には宮沢賢治の静かな気概が感じられます。これを読めば宮沢賢治のひととなり、また作品である自分の童話に対する思いというか考え方がよくわかります。

ちなみに宮沢賢治の作品は青空文庫で無料で読めます。この注文の多い料理店の序だけでも、是非とも読んでもらいたいところです

挿絵

基本的に僕は挿絵というものは、無用というか邪魔だと思っています。

例外として不思議の国のアリス、鏡の国のアリスのJ・テニエル、そしてこの注文の多い料理店の菊池武雄氏の挿絵があります。

宮沢賢治自身が菊池武雄氏の挿絵が気に入り、この童話集を刊行するにあたり、職業画家ではなかった菊池に対して、自ら挿絵を依頼したそうです。

角川文庫の場合は、大正13年に刊行されたものとほぼ同じ場所に挿絵がありますが、ちくま文庫は巻末にある後記に小さくまとめて掲載されています。

挿絵を不要、あるいは邪魔だと思う理由。

この童話集、注文の多い料理店は9つの童話から成っています。

  • どんぐりと山猫
  • 狼森と笊森、盗もり
  • 注文の多い料理店
  • 烏の北斗七星
  • 水仙月の四日
  • 山男の四月
  • かしわばやしのもり
  • 月夜のでんしんばしら
  • 鹿踊りのはじまり

1話目はどんぐりと山猫です。小学生の一郎は、山猫からはがきで招待され、どんぐりたちの裁判に立ち会うため、その裁判が行われる場所に向かいます。

その道中、栗の木、笛ふきの滝、たくさんの白いきのこ、栗鼠たちに道を尋ねます。

よく童話にはしゃべる木が登場します。森の中で遭遇するこのが多いようですが、そういった木のイメージとしては、幹に顔が付いていて、鼻は折れた枝、目や口は節穴であったりうろであったりします。オズの魔法使いに出てきたような記憶があります。最近ではワンピースのビッグマムによって喋れるようになった木々がそんな感じでした。

ただ、このどんぐりと山猫の喋る栗の木にはそんな印象はなく、普通の木が木として喋っている感じです。そこで、もしこの場面で挿絵が入っていて、それが顔のある木だった場合、抵抗があるので読書の妨げになります。まだ、イラスト屋さんのようなポップな感じだと気になりませんが、例えば主人公の顔がリアルに描かれていて、更にそれが頻繫に出てくるなら、かなりその絵に引っ張られてしまいます。

印象とか感じとか漠然とした言い方をしました。しかし、宮沢賢治の表したこのどんぐりと山猫の世界を読者として、はっきりと見ることができたなら、こんな漠然とした言い方をする必要はありません。

物語世界において、その登場人物がある山を仰ぎ見たとします。その山は、その世界にある唯一の山です。その時刻は、その主人公がその山を仰ぎ見た唯一の時刻であり、その角度はその時刻にその主人公がその山を仰ぎ見た唯一の角度です。

物語世界をもつ作品を読むということは、厳密にいうなら、その唯一の山を唯一の時刻に唯一の角度で主人公と同様に見るということです。

その世界が、日本ではないのに、そこで富士山を思い描いていたり、その世界が、地球ではないのに、そこでチョモランマやキリマンジャロを思い描いていたとするなら、本を読んでいるというよりも、自らの想像を逞しくしていることになってしまいます。

むろん、実際にはそこまでの再現は不可能です。多くの場合、それこそ漠然とその世界の断片を垣間見、また漠然とその世界の雰囲気を感じる程度で読書は進んでいきます。

ただ、時おり僥倖のように、その世界が、心の中というか、頭の中というか、自分の中で一瞬で展開される場合があります。

その僥倖を得るためには、読書の仕方に工夫がいると思うし、それを実践するにもまた工夫がいるかと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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