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三冊目 【水滸伝】(その1) ゲーム、漫画でおなじみの水滸伝を読んでみよう。 

投稿日:2019年11月9日 更新日:

伝承によって生み出された物語。


水滸伝とは。

中国の長編小説。北宋末の義賊の豪傑108人の武勇物語で、南宋時代から講談や読み本として行われていたのを、施耐庵(したいあん)と羅貫中(らかんちゅう)が14世紀中頃にまとめた。中国の口語文学の最も代表的なもの。

山川 世界史小辞典

中国の代表的な長編口語小説。四大奇書の1つ

北宋末期に山東の湖、梁山泊(りょうざんぱく)に集まった宋江(そうこう)以下108人の豪傑が、貪官汚吏(どんかんおり)に抗して山東・河北の地を荒らしまわる武勇伝。元の施耐庵(したいあん)の原作、明の羅貫中(らかんちゅう)の編纂(へんさん)といわれるが、すでに南宋時代に読み本(よみほん)として民間に普及し、元代に戯曲化され、明初期に完成したと推定される。

旺文社 世界史事典

水滸伝との出会い

僕の水滸伝との出会いは小学生の時でした。友達から薦められたのですが、それは実は三銃士でした。うろ覚えで本屋さんへ行き、三国志を買いました。その本は三国志と水滸伝が抱き合わせになっていました。世界文学大全集みたいな感じのものです。

結果、三国志は大変おもしろくことなきを得ましたが、水滸伝の印象は薄かったと思います。

しかし、齢を経て色々な本を読むうち、水滸伝の名前は何度か目にしました。

例えば、忍法帖で有名な山田風太郎氏のインタビューで、忍法帖誕生のきっかけについて聞かれたとき、水滸伝の名が出てきました。

山田風太郎氏は、自分なりの水滸伝を書こうとしたとき、登場人物108人におのおの違う武器を持たせる構想を立てたそうです。しかしながら、刀、槍、鎖鎌、斧、鞭・・・。直ぐにネタ切れになってしまいました。そのとき、忍者の忍術を一人一つずつ考案し、それをカウントすることを思い付いたそうです。結局、その小説は書かれなかったのですが、それが後の忍法帖につながったそうです。ちなみに、忍法という言葉は山田風太郎氏の創案です。

水滸伝の登場人物は何人か覚えています。史進、林冲、波裏白条の張順、黒旋風の李逵、宋江、石を投げる人、武松、土行孫……は封神演義でした。搾り出せば後10人ぐらいは挙げられるとおもいます。

登場人物に字(あざな)が付いているのもいいですね。人呼んで~というやつです。あと、天貴星とか地殺星とか、星の名前が付いているのも。実際の空の星に対応しているのでしょうか。

車田正美氏の漫画、聖闘士星矢のハーデス編は、ダンテの神曲とこの水滸伝がモチーフになっています。

そして、この水滸伝のように仲間が段々と増えていくという展開は、漫画などによく現れます。諍いを起こしていた相手、更には明らかに敵だった者達までもが仲間に加わり、味方の人数がどんどん増えていくというパターンです。

主人公を中心としたゆかいな仲間たちは膨大な数に膨れ上がり、結局その仲間たちで何をするのか、何と戦うのか分からない状態になってしまいます。

僕の読んだ水滸伝の書籍は次の二つです。(子供用に編纂されたものは除きます。)

  • 水滸伝  社会思想社 現代教養文庫 全5冊 村上知行訳 1983年2月28日 初版第1刷発行 関口コオ氏の挿絵(切り絵)が付いています。
  • 完訳/水滸伝  岩波書店 岩波文庫 全10冊 吉川幸次郎・清水茂訳 1998年10月16日 第1刷発行 巻頭に挿絵が二枚ずつ付いています。中国の絵だと思います。後で調べます。

上記の現代教養文庫版と岩波文庫版で長さがまったく違うのは、現代教養文庫版全5冊の方は梁山泊に108人が集まったところで終わっているからです。

村上知行氏の訳は、このカットも含め簡潔でおもしろいものです。もともと中国のテキストも色々あるようです。ただ後半はつまらないという理由で、清の金聖嘆がバッサリいったのを村上氏は採用しています。

108人終結以降の話が、おもしろかったのかそうでなかったのか、岩波文庫版で読んだはずなのですが全く憶えていません。それはまさに、つまらなかったためなのか、単に記憶力がないだけなのか、いずれにしてもまた読んでみて、おもしろくなければそこで中断します。そういう訳で岩波文庫版を読むことにします。

(今、知ったのですが、社会思想社は倒産しており、現代教養文庫版は絶版になっています。あまり大きな声では言えませんが、いかにも潰れそうなネーミングというか……。いえ、なんでもありません。)

 

 

 

 

 

 

構成と読み方

岩波文庫版は全10冊です。冒頭に引首(まくら)導入部があって、本編は100巻です。

例えば第1巻は、忠義水滸伝巻の一、第一回と表記されています。そして副題(サブタイトル)として、「張天師 祈りて瘟疫を禳(はら)い  洪大尉 誤って妖魔を走(に)がす」とあります。

全10冊で全100巻なのですが、1冊10巻というわけではなく、ものがたりのまとまりによって、1冊8~11巻が振り分けられています。

1巻30ページ前後です。1巻を5~6日で読むとして、全100巻500日~600日、まあ、読み終わるまで、1年4~8ヶ月といったところです。

伝承ゆえに発生した不具合。

70回本と100回・120回本。

断ち切ったのは英断だがあまり受け入れられていない。

100回、あるいは120回本では、梁山泊に集まった108人の豪傑のその後のことが記されています。甚だ簡単に言うと、異民族討伐のうちその数は徐々に減っていき結局雲散霧消していくというものです。

その後の話はつまらない、梁山泊に108人が集まった瞬間がこの物語の盛り上がりの頂点であるとして、それ以降の話をバッサリ断ち切ったのが金聖嘆でした。

しかし、今でも多くの水滸伝は100回、120回本が採用されて日本語訳されています。

108人の豪傑たちが集まったというだけでは、結末として納得できないとういか、座りが悪い感じなのです。伝承が集まって形作られた物語なので、おそらく昔の人々も同様な感想を抱いたからこそ、108人終結後の話を付け加えていったものと思われます。

けれど、付け加えてみたところで、終結後の108人の行動には、終結する前の段階において何の伏線もないのです。それはまあ、当然のことなのですが。全員で戦うとしても、それを目標として集まって来た訳でもありませんし、それを目的として集められた訳でもないのです。

金聖嘆は英断により108人終結により断ち切りましたが、結末として納得できない、座りが悪いという問題は解決できてはいません。かといってその先をただ付け足すだけだと木に竹を接いだ感じになってしまうのです。

完成された作品にするには。

終結後に強大な敵と戦うという設定にします。108人終結のそれが目的となり、108人の豪傑のそれが目標となります。物語当初からそれに対する伏線を入れつつ加筆します。

梁山泊に集まった豪傑たちは、いろいろな性格や能力の持ち主達です。戦闘においては、その108人の性格、能力を生かしつつ、またさらにそれを組み合わせつつ進行していくことになります。

敵もそれなりの108人に匹敵する人数、またそれぞれに個性が必要になってくるかもしれません。

となると、そのストーリーは複雑でまた長大なものになるでしょう。梁山泊に集まるために費やされた物量に匹敵するかもしれません。

今更ですが、それを試みる作家がいるとは到底思えません。

妥協策の提案。

そこで、妥協案を考えました。

封印されていた108の魔星が解き放たれたことが物語の発端なのですから、その結末はその魔星の終結になるのは自然です。ですから、物語をその終結したところから始めるのです。

冒頭部分で108人にもとからある序列によって、順に名前、あだ名、星の名を列挙します。通常は第70回辺りにあるものです。そして、この者達がなぜかわからないけれども、喜び盛り上がっているところから話を始めます。そして、その後の話は、この喜び盛り上がっている人達が何者なのか、またどのような経緯で集まってきたのか、要するに通常の水滸伝に戻るのです。

こうしておけばゴールをあらかじめ明示したことになり、その終結後何をするのか、どうなっていくのか、そういった疑問は軽減されるというか、またそれは別の話という事になると思うのですがどうでしょうか。

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