【イリアス】を読みます。《 7冊同時進行読書 》
【イリアス】とは。
Ilias
『オデュッセイア』とともに、ホメロスの作といわれる古代ギリシア最大の叙事詩。英語ではイリアド(Iliad)
24巻・1万5693行からなる。イリアスとは、トロヤの別名イリオンに由来し、イリオンの歌の意。アガメムノンを総大将として行われたトロヤ戦争をうたい、特に英雄アキレウスのトロヤ攻略が劇的に展開されている。ギリシア人は弦楽器のリラに合わせて好んで吟誦(ぎんしょう)した。ミケーネを明らかにする史料的価値も高い。
旺文社 世界史事典より
六脚韻が用いられているそうです。
日本語訳で読んでいるので六脚韻というのはわかりませんが、歌として韻を踏んでいるということでいいのでしょうか。原語で歌を聞いたとき心地良いのだと思われます。
ホメロス。
ホメロス〔Homēros〕は前8世紀後半頃のギリシアの詩人です。ということは、今から約2750~2800年前の人ということになります。ヨーロッパ最古の詩人で、これまたギリシア最古かつ最大の英雄叙事詩【イリアス】と【オデュッセイア】の作者とされています。盲目の吟遊詩人としてギリシア各地を遍歴したとの伝承がありますが、もとより生没年不詳、経歴なども未詳で、その実態は明らかではありません。
盲目の吟遊詩人というところから、【平家物語】を弾き語りした琵琶法師を連想しますが、そもそも盲目であったかも定かではありません。
昔は本は稀少であり、文字も読めない人がほとんどだったので、話を伝えるのは語りであったり、歌、芝居であったりしたわけです。
もちろん、ホメロス以前にもギリシア神話はあり、吟遊詩人もいたわけで、そんな中「ホメロス問題」が19世紀に盛んに論争されました。
ホメロス問題とは、【イリアス】と【オデュッセイア】の両編はホメロスが単一の歌として創作したのか、あるいは既存のうたをいくつか結合、統合して作成したのかという問題です。更には、ホメロスの存在そのものを疑う向きもあるようです。
ただ、【イリアス】【オデュッセイア】は両者ともに、それぞれ一貫性による結晶性があり、優れた天才によって、これら大きな詩編は秩序づけられ、統合・編集されたものと考えられます。
【イリアス】【オデュッセイア】が個人の作かどうかという前に、ギリシア神話そのものが、枝葉はともかくとして、その大元となる部分が個人の創作になるのか否かが気になるところです。
ギリシア神話。
僕が最初にギリシア神話に触れたのは、百科事典(学習こども百科)でした。あと、家に子供向けの星の図鑑があったのですが内容はほとんどギリシア神話でした。
【イリアス】【オデュッセイア】の他にギリシア神話系で読んだ書籍は次のようなものです。
- 【ギリシア・ローマ神話】 ブルフィンチ ( 岩波文庫 )
- 【神統記】 ヘシオドス ( 岩波文庫 )
- 【ギリシア神話】 アポロドーロス ( 岩波文庫 )
- 【トロイア戦記】 クイントゥス ( 講談社学術文庫 )
まあ、何と言っても知識のほとんどはブルフィンチのギリシア・ローマ神話からのものです。
とにかく膨大なエピソードがあり、これまた数限りない個性を持った神々・人々が登場します。しかし、昨今の作家とくに漫画家を見るに、あながち一人の創作という可能性もなくはないのではないかという気がします。
古くは手塚治虫を筆頭に、現在活動中の漫画家では岸本斉史のNARUTO尾田栄一郎のワンピースなどの豊富なエピソード、キャラクター等が一人の人の創案であることを思えばです。
さらに、ギリシア神話では、その物語が実際に夜空にある星座と関連づけられています。
星座
そもそも、もとからあった星座に物語を付けていったのか、星座そのものを、物語を作ると同時に作っていったのか。
幾つかの星を一つのグループとして捉え、線で結び、動物・人物・あるいは物を表す星座とするのですが、言うまでもなく無理がありすぎです。
例えば、カシオペア座はWの文字の配列をもつので有名ですが、そう線を引いたのでWとなっただけで、線の引き方によっては台形にもなります。そして、台形から特定されるものなどいくらでもあり、なに座にするかは決めた者勝ちです。
結局のところ、全ての星座は決めた者勝ちです。
星座を構成する星のグループを夜空から抽出して、星座としての線で結んでいない状態で、「これは何を表しているのでしょうか」という質問に対して、正解を出せる人は、まあいないと思います。(星座としての線が引いてあっても同じですが。)
夜空の星を眺めながら、その星たちを結んで星座を作ったり、そこからの連想から神々や英雄の物語を夢想したり、そこからさらにその関連から星座を追加したりするのは、かなりロマンチックな感じです。
集中アイテムとしての星々
小説の作家や漫画家の創作についての談話を聞いていると、いろいろな対象からインスピレーションを得ていることがわかります。
それは自然の動物、あるいは木々であったり、一枚の写真であったり、他の人の何らかの作品であったりするわけですが、ギリシア神話の場合は夜空の星々がその役割の一翼を担っていたと思われます。
そして、その星々はインスピレーションをもたらすものであると同時に、集中をもたらすものでもありました。
瞬く星々の一つ一つの見た目はどちらかといえばシンプルなものです。その星々が夜空に広がることによって、複雑かつ膨大なギリシア神話を生み出していく鍵となっていきました。
そして、その星々は太陽と同じく、自ら光・熱等を発している恒星と呼ばれる天体です。星座を構成する恒星同士には全くなんの関連性も無く、ただ地球の地上からの見た目に過ぎません。
膨大な宇宙の広がりが、地球という一つの点、さらに地上に住む人の視点から心の中に取り込まれ、今度は逆にその微小な焦点から、想像力の奔流が放たれ、ギリシア神話の世界が構築されていきました。
宇宙の広がりと心の広がりがそこにはありました。
宇宙の広がりが心の広がりをもたらしたとも言えますし、心の広がりが宇宙の広がりを捉えたとも言えます。
浪漫があると言えばあるのですが、実際には星を眺めながらとりとめのないことを夢想したのが根本です。
神々がいながら宗教にはならなかった。
オリュンポスの神々をはじめとして、多くの神々が人間界に介入しまくります。その介入の理由の基準も良くわかりませんし、どこまで手助けするか、あるいは逆に邪魔をするのか、その程度も良くわかりません。
要するに、気まぐれで場当たり的です。さらに、介入している最中でも、他の神の意見というか不平・文句に簡単に左右されます。
介入の中でも、人間と関係をもち、子をもうけるというパターンは非常に多くみられます。
生まれてきた子供は、神の子でもあるわけです。この【イリアス】の主人公であるアキレウスも例外ではなく、テッサリアのフティア王ペレウスと海の女神テティスとの間にできた子です。
優れた人というよりも、常人を超えた人という位置付けになります。
それゆえ、頭脳、体力、体格的に完璧に近いのです。
神々に対する崇敬や憧憬より、もう一段人に近いもの、身近というか、ある程度行動を共にすることが可能な存在として尊敬や敬愛の対象となるのです。
行動の動機が善悪ではなく、勝手で気まぐれな神々であるがゆえに、信仰の対象としては不向きです。
善に対しての希求がないがゆえに、支配階級からすれば役立つものではなく、庶民にとっても有益なものではありません。社会的価値が薄いのです。
また、実在という点にも重きを置いてはいません。ゼウスやアテネ、アポロンたちが実際にいると思っている人はいないと思いますが、何にでも例外はありますし、調べた訳でもないので、この話題はこのへんで。
芸術に志向。美の追求が宗教ではなく芸術に向かわせた。
美に対する志向が、特にギリシャ神話を題材にした彫刻から強く感じられます。
神と人との間にできた完璧に近い人間、あるいは神自身は、当然のことながら肉体的にも完璧です(火と鍛冶の神、ヘファイストなどの例外もありますが)。その肉体美が彫刻、あるいは絵画に表され、見るものの賛嘆の的になります。
その美に対する憧れは、ただ均整のとれたスタイルの良さのみならず、健康、更にはその健康をもたらすものとしての健全な生活にも及ぶと思います。
神話の内容には理不尽、不道徳、残酷な面も多々ありますが、健全さをも感じさせる健康な肉体美により、一旦、彫刻・絵画などに変換されたとき、昇華された美をもつ作品として我々の前に現れてきます。
[…] 6週目。【2019.12.1~12.7】✙ ホメロス作【イリアス】(ここまでが準備期間。) […]